色々なタイアップ

 急ぎの用で海外支部に電話をかけるがだれも受話器を取らない。ややあってようやく電話に出た現地採用の部下が Sorry, we’re all tied up here. えっ?まさか強盗にあってみんな縛り上げられてる?!・・・いえいえ、そうじゃなくって。tie up は止める、忙殺する。受動態だと忙しくて手が離せないという意味になる。

 タイアップと言えば早い段階から日本語の仲間入りをした外来語の一つだろう。企業間の広範な提携 business tie-up やドラマと主題歌、アニメ映画とおもちゃなど相乗効果をねらった協力関係や、異なる業種間でのタイアップ広告 tie-up advertising などが良く知られているが、逆に停滞させると言う意味がかすんでしまった。遅れてきた同僚が There was a tie-up on Yamate-dori. とうんざりした様子だったら traffic jam と同様、渋滞に巻き込まれたという意味だ。
 
 ある会議に数年毎に招かれるアメリカ人講師は会社の役員でプロのピエロでマジシャンという珍しい肩書きを持っている。講演(公演?)テーマは自由な発想 Out-of-the-Box Thinking や効果的なプレゼンテーションなど様々だが、なかなか暖まらない日本人オーディエンスを相手に毎回大熱演。ピエロの扮装こそしていないもののマジックを見せたり椅子から転げ落ちて見せたり。主催者も気を利かせて桜の質問を用意する plant some questions ように呼び水的に笑ってくれる人を頼んでおけば良いのに、と思ってしまう。

 「仕事はたまっているのにどうしても忙しくて手が回らない tied up ってことありますよね」となめらかに話しながら手元でひもに結び目を作っていく。そう、ひもが結ばれていく tied up との語呂合わせ pun。「でも本当のタイドアップとは、こういうことを言うのです」と紙袋の中にひもを垂れ下げてから引き上げると、結び目には Tide という名前の洗濯石けんの小箱がくくられてぞろぞろ上がって来るという趣向。楽しいのだが一筋縄ではいかないスピーカーなのである。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2014年2月号掲載)

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