オリンピックとカナダの木

 2月12日から17日間にわたって冷たい雪と氷の上で熱い戦いが繰り広げられ、今月は同じ会場で10日間のパラリンピックが行われているバンクーバーは、カナダの13の州と準州 provinces and territories のうち、最も西に位置するブリティッシュコロンビアBC最大の都市だ。その隣町にスピードスケート会場のリッチモンド・オリンピック・オーバルがある。サステナビリティーをテーマとして出来るだけ既存の施設を利用した今回の五輪のなかで、新しく建設された数少ない建物の一つだが、大変美しい建造物であると同時にある工夫が話題を呼んだ。

 BCは面積の半分を林業の対象となる経済林が占める緑豊かな州だ。ところがここ数年、温暖化の影響か冬の間の気温が十分に下がらないため、松食い虫が大発生して産業と自然を脅かしている。森林は本来二酸化炭素の吸収源 forest sink だが立ち枯れ木を放置すれば排出源になってしまうし松食い虫の蔓延に拍車をかける。そこで被害にあった木を木材にしてスケート場の大きな美しい屋根を作ったのだ。

 林業への取り組みはそれだけではない。昨年州議会で Wood First Act という法律が成立した。州が発注する建物はまず木造を前提に検討することを求めている。コンクリート業界からはすこぶる評判が悪いが、州内の林業を基盤とする市町村が相次いで賛同の決議をしているようだ。さらにそれに先立つ4月には建築基準法 Building Code を改正し、木造住宅の高さ制限を4階から6階に増やしていた。

 ちなみにカナダは連邦レベルだけでなく州にもそれぞれ首相や大臣がいる。昨年11月BC林業界の使節団を率いて来日した林業大臣に同行したが、印象的だったのはカナダ産の木材を作って建てられる老人ホームの地鎮祭で意外にも器用にそれっぽく柏手を打って礼をする大臣の姿。そして林野庁長官を訪問した際に見た、日本のお役所とは思えない、木がたくさん使われた素敵な農林水産省の玄関ホールだった。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2010年3月号掲載)

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