素敵な北海道弁

 世の中朝型人間 early birds と夜型人間 night owls がいるが、私は典型的な後者で時々テレビの深夜番組にお気に入りを見つけたりする。そのうちゴールデン prime time に昇格するものがある一方、(私に)惜しまれつつ終わってしまうものもある。中でも懐かしいのがあるお国自慢番組だ。通訳の現場には講演原稿を見ながら訳すサイトラ sight translation と言うのがあるが、この番組でもフリップに書かれたお国言葉をその地方出身のタレントが標準語に変換するというゲームがあって実に面白かった。様々な方言が魅力的なのに加え、それを標準語に訳すのに四苦八苦している様子に我が身を重ねていたのかもしれない。

 年末年始を過ごした北海道の実家で、音楽番組で生前の美空ひばりが歌う姿を見た母がつぶやいた。「この頃から悪かったんだね、がおってるもね。」東北から北の人には分かると思う。「がおる」とはやつれたり顔色が悪かったりすることだ。普段どっぷり標準語の世界に浸かっていて忘れているが、そういえば北海道にも独特の言葉があったっけと、件の番組よろしく文章を作ってみた。

「なに、めっぱ出来ていずいの?それはあずましくないねぇ。ちょしたりかっちゃいたら駄目だよ。腫れたらなまらみったくないべさ。」標準語に訳してください。(解答は最後に。)

 一言で訳しきれないニュアンスたっぷりの言葉も多い。「おだつ」は調子に乗ってはしゃぐという意味で「いい歳こいておだつんでないの、はんかくさい」(いい歳して調子に乗って、馬鹿じゃないの)のように使う。「たごまさる」は靴下などが足首のあたりにくしゃくしゃとたまった様子。「したっけね~」の一言には「ではこれで失礼しますがどうぞご機嫌よう」の気持ちが詰まっている。お国言葉は奥が深い。

 さてこちらが解答例です。
「あら、ものもらいが出来てごろごろするの?それは気になって落ち着かないわね。さわったり掻いたりしては駄目よ。腫れたらとてもみっともないことになるから。」

(「毎日フォーラム 日本の選択」2010年2月号掲載)

「素敵な北海道弁」への2件のフィードバック

  1. ものもらい
    でんでんさん、コメントありがとうございます。

    神戸で何年か暮らしたうちの非情の配偶者も「めばちこ」って言います。初めて聞いたときは何のことか分かりませんでした(^_^;)

    「めっぱ」は昔は秋田・青森あたりでも使ったそうですが、今はほとんど北海道オンリーのようですね。この記事を書いたときに色々調べていたらこんなサイトを見つけました。お暇なときにでもどうぞ。
    http://www.rohto.co.jp/mono/index.htm

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