lineの話

年末年始の休みは年賀状を書き、実績表を更新しているうちに終わってしまった。私も多くの会議通訳者と同様フリーランスなので、実績表を毎年更新して登録しているエージェント各社に送るのだ。去年は会議や記者発表会など210日くらい仕事をしたが、スプレッドシートに案件ごとに書き出したら140行になった。

 表になった1行はrowと呼ぶが、このコラムのような文章の1行はlineという。one-linerと言えば欧米人が大好きな1行ジョークのことだが、他にも様々な用途がある単語だ。例えばbottom line。ヒップラインのことかしら、とにやにやしてはいけません。そういう意味もあるけれど、ビジネスでは企業の利益を指すことが多い。損益計算書の最下行という意味でこう呼ばれる。そこから派生してtop lineは売り上げのこと。top- and bottom-line growthといえば、だれもが待ち望む増収増益となる。

 行間を読むread between the linesは耳にされたことのある方も多いに違いない。”Drop a line.”と言えば短くてもいいから便りを下さい、のニュアンス。自分の決め言葉を誰かに先に言われたら”You stole my line.”とやんわり抗議しよう。line of fireはもともと銃の放火を浴びる場所だが”I’m in the line of fire.”と頭を抱えたら、矢面に立たされたり板挟みになる苦労が上手に伝わる。とりとめなく喋り続ける同僚には”What’s the punch line?”「で、オチは?」

 電話の向こうから”Hold the line.”と言われ、接触が悪いのかと電話線を持ち上げた人がいたそうだが、これは「電話を切らずにお待ち下さい」の意味です。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2008年2月号に掲載)

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