誤訳の効用(2) 「米国の逆襲」

 自分の強さに自信を持っているときは実に鼻持ちならないが、完膚無きまでに叩きのめされると、逆に潔く相手から学ぼうとするのが、アメリカの本当の強さだ。数多くの学者がデミング賞受賞企業を訪問して研究を行い、その結果日本の「品質管理」は“quality control”ではない、と言う結論に達した。そうして出来た新たな英訳語が“total quality management”すなわちTQM。この理解がアメリカ製造業を再生の道へと導いていく。

 日本の品質管理の心臓部にいまや国際語となった「カイゼン」がある。“incremental improvement”と言うべき小さな改善の積み重ねのことだが「継続的改善」と説明され“continuous improvement”と訳された。そこにはもはや「小さな」という縛りはない。

 日本人が「品質管理」という誤訳に触発されて爆発させたのはイマジネーションであったが、アメリカ人が“continuous improvement”にひらめきを感じて爆発させたのはイノベーションだった。日本人が自らに縛りをかけて小さくまとまろうとするのに対して、アメリカ人は広がれるだけ広がろうとしたのだ。

 ポーター教授も検討委員を務める世界経済フォーラムの国際競争力ランキングで、日本が定位置だった1位の座から滑り落ちたのは1994年のことだ。96年にはトップ10にも入らなくなり、2001年は20位すら逃した。しかしその後V字回復を遂げてここ3年は10位以内に返り咲き、今年は8位とまずまずの健闘ぶりだが、その報告書の中でアメリカは堂々の一位を飾っている。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2008年5月号に掲載)

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