IT業界には略語が多い。コンピュータの心臓部をなす半導体の集積回路がICだったり、モニターの液晶画面がLCDだったり、コンピュータを使った設計製造支援がCAD/CAM、企業の経営資源を最適配分するための情報システムがERPで、物流を川上から川下までまとめて最適化しようとするサプライチェーン・マネジメントがSCM、顧客との長期的な信頼関係構築を目指すソリューションがCRMという具合だ。特に最近ホットなのがSOAサービス指向アーキテクチャやSaaS, Software as a Serviceあたりだろうか。このように単語の最初の文字をつなげて作る略語を頭字語acronymと言い、approx.やvol.のような省略形をabbreviationと呼んで区別する。
講演資料のスライドにacronymが山ほど使われていたりする様子をalphabet soupと呼ぶ。アルファベットの形をしたマカロニがどっさり入ったスープに最初に例えられたのは1930年代のアメリカ、Franklin D. Roosevelt大統領のニューディールの元で新設された官公庁だったと言う。その数50ほどにもおよび、NRA産業復興庁のようにすでに廃止されたものもあるが、FDIC連邦預金保険公社、FHA連邦住宅局, TVAテネシー川流域開発公社などは未だに健在だし、昨年政府管理下におかれて話題になったFNMAファニーメイも、泣く子も黙るSEC証券取引所委員会もニューディールの落とし子だ。
世界の期待を集める米国オバマ政権のグリーン・ニューディールからも新たなacronymが生まれることになるのだろうか?そんな話を仲間内でしていたらある人が「じゃあ、その最初はYWCだ」と言い出した。え、何のこと?「決まってるじゃん、Yes, we can!」
・・・オリジナルより音節が増えてしかも言いづらい略語は成立しにくいと思います。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2009年3月号掲載)