嘘の色

 「うっそ~!」という若い女の子達の嬌声に海外からの研修生が「私は嘘つきではない!」と真剣に抗議したという話を聞いた。親睦会での出来事で、日本人であれば(たとえオジサン・オバサンであったとしても)そのまま「あなたは嘘つきだ」とは受け取らない表現だが、外国人にはなかなかぴんと来ないに違いない。信じられないincredible, unbelievableと嘘a lieの距離感が違うのが原因かもしれない。

 英語にはwhite lieという表現がある。嘘は嘘なんだけど、それは相手の気持ちをおもんぱかってしかたなくついたものだから、と言う意味だ。白はもちろんinnocentに通じる。気持ちは分かるがちょっと言い訳がましい。同じ白は白でも日本語の「白々しい」はどうしても透けて見えるtransparent lieのことだ。どんなに言いつくろってもやっぱり嘘は嘘なのだ。さらに「真っ赤な嘘」の「赤」は「明」と同じで、明らかな嘘から来ているそうだ。あからさまに嘘と分かる嘘はある意味嘘ではないのだろうが、それでも嘘だと言い張るのが日本文化というものらしい。ある意味いさぎよい。

 エイプリル・フールの嘘はlieではなくてprankと言う。嘘をつくと言うよりは人をかつぐためのいたずらというニュアンスだ。度が過ぎて仕掛けられた人が迷惑を被るようなのはpractical jokeだ。またpull ~’s legという表現がある。日本語で言う「足を引っ張る」とは違って、冗談でだますという意味だ。そこで”Pull the other leg.”と言ったら、最初に引っ張った方の脚では効果がないから、もう片方も引っ張ってみたら、つまり「だまされないよ、もうちょっとましな嘘をついたら?」の意味になる。

 ちなみにlieが常に重たい意味かというとそうでもなく、言い間違えた時に”Oops, I lied!” とか”No, I tell a lie.”と言って訂正したりすることもあるので、ある意味文脈次第なのだが、とりあえず、自分のことだけにとどめて、相手を嘘つき呼ばわりしない方が安全だ。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2009年4月号掲載)

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