私の七つ道具

誰にでも七つ道具のようなものがあると思うが通訳者にもいくつか定番がある。まず同通に欠かせないイヤフォン。Bang & Olufsen の高級品を愛用する通訳者もいるが、音楽を聴くわけではないし、それよりカナル型 in-ears が苦手で交代の時にコードが絡まってもたつくのが嫌なので私は専らダブル巻取りの耳掛けタイプだ。コードに負荷がかかるので寿命は短いが消耗品 expendables だと割り切ることにしている。

パートナーとの交代のタイミングが大切なのでタイマーも必須だ。サイレントモードがあってカウントダウンとカウントアップ両方できて、文字が大きく見易いのが良い。これは数日間の出張の時にも役に立つ。初日の夜、風呂に湯を張る時にカウントアップで時間を計り、翌日からは音が出るようにしてカウントダウンする。丁度の湯量になるまでバスルームを何度も覗きに行かなくても良いというのが小さな幸せなのだ。

小型のスイスアーミーナイフで使用頻度が高いのが栓抜きと一体になったマイナスドライバー。資料のホチキス止めを外したい時に重宝する。小型の双眼鏡は投影スクリーンが通訳ブースから遠い時や資料が手元にない時の頼もしい味方。倍率が7倍もあると画面が一覧できずレーザーポインターを追っていると乗り物酔いのように気持ちが悪くなるので昔は3倍でプラスチック製の安いオペラグラスを便利に使っていたが、4倍でお洒落かつコンパクトなのを見つけた時は小躍りしたものだ。

通訳者は必ず辞書を持ち歩く。電子辞書が一般的になって重たい紙の辞書を何冊もカバンに入れて歩かなくて済むようになったのは福音だった。ところが最近通訳学校に電子辞書すら持参しない生徒がいる。調べる時はスマホだ。これも時代かと思うが実はプロにはNG。セキュリティが厳しくカメラや通信機能付きのデバイスを持ち込めない現場がある。さらに恐ろしいことに特定の事業者の携帯しかつながらない現場さえあるからだ。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2017年7月号掲載)

「私の七つ道具」への2件のフィードバック

  1. スマホ
    スマホの勢いは驚くべきものがありますが、辞書の代りとしてはいろいろ問題がありますね。
    拘置所や警察では接見室に持ち込めませんし。
    刑務所に至っては建物の入り口でロッカーに入れさせるので、待合室ですら使用できませんし。

    某大学の期末試験、今までは学校全体が(試験のときは)スマホ禁止だったのですが、第二外国語の学生に電子辞書や紙の辞書を買わせるのが心苦しくて、教務課に相談したらOKが出たので、持ち込み可にしました。それがあるからといって全部楽々ではないのですが…。
    スマホを持っていない私としては、時代の流れにため息が出るばかりです。(笑)

  2. スマホ
    やっぱりでんでんさんの現場には持ち込めないですよね~。メーカーのR&Dセンターでも入り口にロッカーがあって、警備員さんに「はい、カメラ付きの機器は全部ここに置いてって下さぁい」とか、言われたりします。

    この夏実家に行ったときにうちの母のガラケーを久しぶりに触ったのですが、feature phone と言うだけあって機能満載だったんだなぁと、改めて感心しました。日本はやっぱりすごいです。

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