騙されないで

 あるクイズ番組で「ランゲルハンス島はどこにあるでしょう」という問題があった。アシスタントの女性が大きな世界地図を運んできてその横に立っている。出演者達は地図に気を取られてそれらしい島を探そうとするが、答えは当然アシスタントの体の中だ。解答者は地図によって誤った方向に誘導された、つまりミスリードされたのである。

 ランゲルハンス島は英語では islet of Langerhans のように islet を使うことが多い。 島と言えば island だが小さな島を isle と言い、さらにそれより小さいと islet となる。この -let は接尾辞で小さいものを表すので、booklet は小冊子、 フクロウの赤ちゃんが owlet、小さな java のアプリケーションは applet、くまのプーさんの親友 Piglet も子豚の意味そのままの名前だ。私の仕事でよく使われるのはインクジェットプリンターのノズルから射出される小さな液滴を意味する droplet や、流体解析で対象になる小さな炎 flamelet だが、もっと一般的な言葉ではテーブル table も小さくなると tablet だ。話題の iPad のようなタブレットPCや、さらに小さくなると平たい形をした錠剤の意味にもなる。

 面白くなって調べてみたら売り出し中の若手を意味する starlet や wiglet 小さなカツラ、つまりヘアピース、boomlet 小景気やプチブーム、さらには bomblet 小型爆弾まで出てきた。では、ballet や bullet と言ったら何でしょう?

 小さなボールや雄の子牛を思い浮かべた方はまんまと私に mislead されたことになる。答えはバレエと弾丸です。

 そういえば少し前にチリでホワイト・タイガーの五つ子が生まれたと話題になっていたことがある。小さな赤ん坊なのでやはり -let が使われ quintuplet と言う。四つ子は quadruplet、三つ子は triplet、と来たら当然双子は? そう、その通り、twin です! ・・・誰ですか、心の中で doublet と叫んでしまったのは・・・?

(「毎日フォーラム 日本の選択」2010年6月号掲載)

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