アクティブ・ラーニング

かつて教えていたことのある英語の専門学校では毎年生徒のスピーチコンテストを開催していて、スピーチ経験のない多くの講師が指導にずいぶんと苦労をしていた。教えられない講師が悪いのではない。英語が教えられるのならスピーチ作りも教えられるという誤った思い込みをしている雇用者が悪い。まずはその教え方を講師に教えなくては何も始まらない。だから本気で企業研修に取り組む企業はトレーナーを育てる Train-the-trainer 研修にも力を入れている。

ある高級車ブランドはディーラーの営業や技術の人材を育てるトレーナーの育成を体系的に行っている。トレーナーたちはまずイギリスの研修専門の会社が開発したモジュールを用いた3~4日間の研修を受ける。そこで学んだスキルをその後の半年間実践して習得する。その後2度目、3度目の研修を半年ごとに繰り返し最後に4度目の研修で認定を受けてようやく終了、まるまる2年間のプロセスだ。

トレーナーが習得を目指す手法が最近日本でも話題のアクティブ・ラーニング。「教える」のではなく様々な手法を駆使して「能動的に学んでもらう」と言う学習者主体のアプローチだ。テーマの導入、参加者のアクティビティの設定と説明法、その結果の発表とその間のディスカッションの進め方、最後のまとめのキーメッセージに至るまで、細かいノウハウがぎっしり詰まったメソッドで微に入り細を穿つ丁寧な指導が行われる。最後の認定では模擬セッションを行うトレーナーにこれまでの学びが生かされなかった箇所が指摘されさらに改善のアドバイスが提供される。

プロの研修を4回受け2年かけてもそうなのだ。決して簡単に身につくものではないし教える側にも深い理解と経験が必要だ。新学習要領によるとアクティブ・ラーニングが2018年から小中学校でも導入されるそうだが、それを主導する教員に対するトレーナー研修は十分な質と量が提供されることを切に願う。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2017年12月号掲載)

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